設計会社作成の「明らかに高額」な工事見積書〜建設業免許と工事〜

query_builder 2025/06/05
コンサルティング
YDS

筆者は、建築や不動産に関する裁判・紛争に関するコンサルティングを行っています。

きっかけは、友人の弁護士からの依頼であり、これまでに大小70程の案件に関与してきました。

普通の人は、なかなか見ることがない訴状などの書面を初めて見たときは、

「訴状は、
こういう書類なんだ・・・」

このように感じました。


法曹界の人にとっては「見慣れた書類」である訴状は、法曹界以外の人にとっては「初見の書類」です。

そして、慣れてくると、訴状や書証・証拠などの書類に「ある傾向」が見て取れるようになります。


損害賠償請求における重要なポイント

・原告が主張する因果関係・ストーリー

・損害額の根拠となる書証:工事請負契約書や工事見積書


裁判においては、最も重要なことが「因果関係」であり、「原告が被告を訴える理由」です。

これは当然のことですが、損害賠償請求事件の場合、その「損害額の根拠」が極めて重要です。

一般の人の感覚ならば、

「被告のせいで、色々な
迷惑を受けた・・・」

ある個人・法人などが、何らかの理由で「迷惑を受けた」場合、相手に賠償を求めたくなります。

そして、「突然裁判」となる前に、ある程度の話し合いが行われる場合が多く、

「まずは、話し合いで、〜万円ほどを頂ければ、

当方は矛を納めよう・・・」

訴訟は、多大な時間と費用が掛かるので、「訴える可能性がある側」もリスクがあります。

この「話し合い」においては、「このくらいの金額」という曖昧な雰囲気でも良い場合があります。

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ところが、裁判の現場になると「このくらいの金額」では、根拠とは見做されません。

そこで、「損害額の根拠」として「明確な数字が記載された書面」が書証として必要です。

「この工事見積書が
損害額の根拠です!」

そこで、代理人は「数字が記載された書類」として、工事契約書や工事見積書を裁判に提出することが多いです。

本来、工事見積書は「工事を請け負う可能性がある」建設会社が作成する書類です。

裁判の世界では、「工事を行う力も資格もない」設計会社作成の工事見積書が頻繁に登場します。

その書面の提出を受けた裁判官は、

「なるほど、損害賠償金額の根拠が、
この書面ですね。」

このように「正統な書類」として受け取る傾向が強いです。

本来、「関係ない」とも言える設計会社作成の工事見積書。

ところが、裁判官は、それらの書類に対しては「正しい書類」として受け取る傾向があります。

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建築設計会社は、設計の際に建設会社が作成した見積書を精査します。

規模にもよりますが、集合住宅・マンションなどの中規模以上の工事の場合、見積書も分厚くなります。

設計図書・仕様書・約款を含んだ分厚い契約書となり、その一部が見積書です。

一つの工事を行う場合「一社に依頼する」ことは少なく、大抵は「相見積もり」になります。

この場合、例えば「一つの工事で三つの工事見積書を精査」するのが、設計会社です。


工事見積書を多数見た経験があり、工事のことが「ある程度分かる」設計会社。

設計会社の中には、裁判や紛争などに対して、「工事見積書を作成する業務」を行う会社があります。

本来、工事見積書は「工事を請負意向がある」会社が作成する書類であり、工事会社は、

「全てを積算すると〜万円ほどで、

利益を、このくらい見込みたいから、総額で〜万円くらいか・・・

いや、あまり高額だと断られて、受注出来ないかもしれないから、少し利益額を減らして、
〜万円くらいにしておこうか・・・」


このように「提出する工事金額」に対して、様々検討を加えて、工事会社は作成します。

そもそも、極めて少額の工事以外は、工事に関しては「建設業」免許(一般・特定)が必要です。

「一級建築士事務所」等の免許を有する設計会社は、「建設業」免許を持っていることは極めて稀です。

そのため、「工事を行う力量」も「資格」もないのが、設計会社です。

「力量の有無」は議論があっても、「建設業」の資格を有さない設計会社が工事見積書を作成すること。

これは、「違法性の可能性がある」と筆者は考えます。

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さらに、問題があるのは、設計会社作成の工事見積書は、「明らかに不自然」な点が多いことです。

原告などの当事者や代理人から「工事見積作成」を依頼され、報酬を得る設計会社。

裁判においても、当事者間の話し合いにおいても、「どちらかが要求する満額が通る」ことは少ないです。


裁判・紛争における工事金額

・原告:工事金額が高い方が良い

・被告:工事金額が少ない方が良い


このように、原告と被告では、工事金額に対しては、対極的姿勢となります。

そして、原告側が作成する工事見積書は「明らかに高額」であることが多いのが現実です。

「報酬を得る」以上、業務を発注する「原告または被告の意向」を汲むのは当然でしょう。


「意図を汲む」場合や、「直接意図を聞く」こともあるでしょう。

いずれにしても、「力も資格もない」設計会社作成の工事見積書は、本来意味がありません。

裁判所など、裁判・紛争に関わる当事者は、このことを理解して対処すべきと考えます。

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株式会社YDS建築研究所

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TEL:03-6272-5572


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