建築訴訟の実務と勝訴へ向けての一級建築士のコンサルティング〜「設計の様々な行き違い」と損害額の明確な立証の実例〜|東京の建築設計

query_builder 2020/06/20
戸建てマンション店舗コンサルティング
YDS建築研究所

損害額の立証が意外と難しいのが建築裁判です。

大きな金額がかかる建築・工事に関するトラブルは、被害者の立場を考えると大きな問題です。

多くの場合は、建主と設計・工事の行き違いや工事瑕疵が建築トラブル・紛争のもとになります。

「被害者」である建主の話を聞くと、「明らかに設計者や工事業者に問題があること」が多い建築トラブルですが、この「明らかであること」をしっかりと裁判官に理解していただくことは困難なことです。


建主が建築士に設計を依頼し、別の会社が工事を請け負ったオフィスを兼ねる個人邸における訴訟の話です。

都内の高級住宅街においてアパレル会社を営む方が建主でした。

1階にオフィスを、2階〜3階に住居を作り、職住近接の住まいとオフィスを作った建主。

設計に関する考え方が合う建築士を探し、建築士が推薦した工事会社に決まりました。 


鉄筋コンクリート造の大規模な邸宅兼オフィスを建築した建主。

いわば、豪邸です。

楽しみにしていた建主でしたが、工事終盤から設計者・建築士との行き違いが発生しました。

オフィスや住まいの望む雰囲気を建築士に伝え、デザインはお任せだった建主。

オフィスの面積を最大限有効に活用するために、「容積一杯で設計する」ことを依頼し、建築士は建主が気に入る設計案を完成させました。

気になる工事費も建主の想定内となり、「邸宅兼オフィス」の豪邸が現実になるのを夢見ていました。


ところが、工事途中から建築士との意見の食い違い、「話が違う」と感じることが発生しました。

例えば、住居の玄関は豪華で立派なのですが、段差がほとんどありません。

「段差がない」ことは近年のバリアフリーに適合していて、設計としてとても良いことです。

一方で、「段差がない」ことは靴のホコリなどがホールに入ってきやすいデメリットがあります。

この点をしっかり説明しなかった建築士に「お任せだった」奥様は工事中に仰天しました。

「段差がない」玄関は信じられなかったのです。

ところが、鉄筋コンクリートのスラブ工事が完成し、「玄関に段差をつける」ためには、その階の床を上げる必要があります。

10cm程度床をあげて、天井を下げることを検討しましたが、「高い天井」が好きだった奥様はちょっと残念です。

そして、もっと困ったことは「追加工事」となり、相応の追加工事費がかかることでした。

非常に不愉快になった建主でしたが、ここまでは我慢したようです。


 玄関がフラットであることに端を発して、建築士との行き違いが様々な箇所に現れてきました。

寒がりの子どもがいるので「床暖房でしっかり暖かい住まい」を希望していた建主。

ところが、床暖房を試運転しても、全く暖かくなりません。

設計時に、無垢材のフローリングを建築士が提案したのに対して、「無垢材もいいけど、床暖房を優先」と伝えた建主。

厚さ15mmの一般的な無垢フローリングなので、「床暖房の効果は問題ない」という話でした。

私も「厚さ15mmの無垢材と床暖房」を設計したことがありますが、暖かくなります。

「暖かくならない」理由が不明ですが、床暖房の性能やフローリングの材質にもよるかもしれません。


工事終盤に床暖房をつけてみても、「床暖房があるのかないのか不明」なほど暖かくなりません。

「なぜ?」と強い不信感を持った建主。

これに対して、建主は建築士に説明を求めましたが、納得いく説明にはなりませんでした。

こうなると「行き違い」が拡大する傾向があります。

至る所に「思っていたのと違う」箇所が出てきてしまった建主。


設計瑕疵・工事瑕疵を主張して、弁護士に相談し、弁護士から私たちに相談がありました。

建主から様々な話を聞くと、設計時からの「建築家・建築士との行き違い」があったようです。

私たち設計者としては、非常に大きな問題なので、私たちは「建主との行き違い」を最低限にするように慎重にそして綿密に設計を進めています。

ここで、建築士や工事会社に対して訴訟を起こすことになった建主。

訴訟を起こすこと事態に多額のお金と時間がかかるので、「最善の選択肢」かどうかはよく考える必要があります。

ところが、感情的になってしまった建主は、訴訟に踏み切りました。


実は「建築設計の際の説明が悪いことに起因する瑕疵」を立証することは非常に困難です。

裁判ではこの件を主張はしますが、「具体的な損害額」の根拠が薄弱です。

「設計時の説明が足りなかった」と主張しても「具体的に、どう足りなく、損害額はいくらか?」という話になります。

「具体的な損害額」としては、例えば「フローリングを剥がして、床暖房を施工し直す」などが「工事金額」としては一定の根拠となります。

この「工事金額」のどこまでを損害として認めるか、という点が難しい主張となります。


これらの損害額は提出しますが、どうしても「損害賠償裁判」としては難しい面があります。

「他に何か具体的な損害が発生していないか」を綿密にチェックし、容積率の算定根拠にミスを発見しました。

建物を建てることができる最大の床面積の根拠となる容積率は、用途地域などの行政による指定以外に前面道路の幅員なども考慮して決定されます。

この「容積率算定ミス」によって、「本来ならば、もう少し建物を建てることが可能であった」ことを立証しました。

その結果、「建主が持つ計画地の財産を過小評価した設計」ということが裁判所に認められました。

地価を考慮して損害額が確定しました。

この裁判では、裁判初期にご相談いただいたことが良かったです。

もし、裁判がある程度進行した後であったならば、裁判官の心証がある程度確定しているので、「財産の過小評価」という主張が通ったかどうかは不透明です。

裁判官もよくわからないままに進む傾向が強い建築裁判。

ある程度の費用がかかっても、しっかりとした経験豊富な一級建築士に早期に相談することが大事です。

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株式会社YDS建築研究所

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