「不自然な工程表」と建築裁判〜「変更の連続」の建築工事現場〜|「法治国家」日本の未来3
筆者は一級建築士として、建築設計を含む様々な業務を行っています。
そして、建築裁判・不動産裁判に対して、建築の専門家として多数関わってきました。
建築裁判・不動産裁判においては、一般的な裁判と比較して「書証が多い」傾向があると考えます。 建築設計の現場においても設計図書だけで多数あり、多数の申請書や報告書があります。
さらに、施工現場の書類を含めると、設計と施工においては、下記のような様々な記録書類があります。
設計・施工における書類・写真等の記録
・設計図書(基本設計図書及び実施設計図書)
・施工図(実施設計図とは別に施工会社が作成
・確認申請書(大型の場合は、開発許可申請書等)
・建築確認済証及び完了検査済証
・条例などに対する申請書と許可証(受領書)
・工事中の記録写真
・工程表
・工事見積書
・工事請負契約書
・工事発注書(ゼネコンと協力・下請企業)
・工事に関わる職人等の労務管理書
大まかに考えただけでも、上のような書類があり、内容によっては枚数が多数ある場合があります。
設計や工事に応じて、度々修正されることがあり、「時系列の変化」を含めると膨大な書類になります。
設計が完了して施工が開始すると「設計図通り」に工事を進めますが、途中で変更もあります。
工事中の変更
・建主の要望による変更
・法規や行政指導による変更
・設計者や施工者による納まり
・仕上げなどの微調整
工事中には、様々な変更・微調整があり、大きな変更になると「計画変更申請」が必要になります。
小さな変更を含めると、工事中は「変更の連続」となり、それを上手く管理するのがゼネコンの役目です。
この「変更の連続」とも言える建築現場では、設計図の修正や変更も多数発生します。
一般の方から見れば、これらの「変更の連続」は、
「設計図を度々修正するのは、
建築士の方も大変そう・・・
そんなに変更があると、
「どれが最新か」が分からなくなるのでは・・・」
このように感じる方もいらっしゃると思います。
大小様々な建築工事において、変更は「図面や仕様書に反映する」必要があります。
これらの変更を「口頭でする」のは、意思疎通の上で極めて危険なので、必ず図面で行います。
住宅などの小規模な図面では、設計者の実施設計図書を利用して、建設会社は工事を進めます。
そこで、設計者は変更した「最新の設計図書」は日付を変更して、「最新であること」を強調します。
規模が大きな工事では、ゼネコンが「施工図」という設計者作成の実施設計図書を元にした図面を作成します。
「施工図」は「工事のための図面」で、実施設計図書とは、かなり趣が異なります。
ゼネコン・現場監督側の視点から考えると、
「工事は、全て私たちが作成する
施工図を元に進めます。
変更は施工図に反映したので、
チェック頂き、承認して下さい。」
であり、設計者は主に施工図などの資料を承認する側となります。
工事中は、実施設計図書は「元の図面」であり、「施工図」によって工事は全て進みます。
工事の進行:実施設計図書と施工図
・住宅等小規模な工事:設計者作成の実施設計図書で工事が進行
・中規模以上の工事:設計者作成の実施設計図書を元に、施工者作成の施工図で工事が進行
そのため、中規模以上の工事になると、現場監督からは、
「私たちが工程表や
議事録を作成するので、設計者・建築士の方には
それをチェック頂き、必要あれば、変更点をお知らせください。」
このような姿勢になります。
工程表に関しては、「工事のプロ」であるゼネコンが作成した書類で、そのまま進行する傾向があります。
一方で、設計者が作成した実施設計図書を元にした施工図においては、「工事現場側の論理」が入ってくることが多いです。
例えば、
「実施設計図書では、
ここは、このようになっていましたが、工事の観点から、
ここに搬入のための穴を開けさせて頂きたい
構造設計の方とも
協議して、OKかどうか検討して下さい。」
設計者が考えない「搬入のための穴」などが登場することがあり、当然、実施設計図書にはありません。
そのため、ゼネコンの現場監督が、
「上下の搬入のために、
ここに穴を開けて、後で穴を塞いで
納めるようにしたい」
「施工・工事のため」に必要な措置を様々考えて、施工図に反映します。
そして、施工図の変更に応じて、工程も多少変わることがあり、その場合は工程表が変更されます。
着工時に、最も大事な「工事の始まりと終わり」を示した「全体工程表」が作成されます。
そして、設計者と建主に渡されますが、それは「始まりと終わり」以外は頻繁に変更されます。
そのため、「全体工程表は大まか」であり、詳細は「月間工程表」や「週間工程表」が重要です。
ここで、工事中に作成・変更される工程表は、裁判で「利用される」傾向があります。
損害賠償事件において、「被告の責任」を立証するために、弁護士は多数の書証を提出し、
「被告のせいで、
こんな損害を原告は受けました!
その証拠は、これらの書証です!」
書証・証拠の中には、工程表があることも多数あります。
「被告のせいで、この工程表から
この工程表に変更になりました!
工程が変更になったり、延びたりしたので
お金がかかりました!」
「工程の変更」は、ゼネコンがなんとか対応することが多いです。
一方で、「工程の延長」は費用の増加に即座につながります。
このようなストーリーがあると、
「なるほど、
因果関係が明確ですね・・・」
法理論で重視する「因果関係」が明快になるので、裁判官は理解しやすい傾向があります。
ところが、この工程表は「不自然」な場合が多く、偽造されたものであることが多いです。
次回は、これらの「不自然な工程表」に関する話です。
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