建築訴訟の実務と勝訴の実例〜建築士との「設計の行き違い」と損害の立証〜|東京の建築設計

query_builder 2020/02/20
コンサルティング
YDS建築研究所

建築訴訟の大事な実務の流れと勝訴の実例の話をご紹介します。

今回は、建主が建築士に設計を依頼し、別の会社が工事を請け負ったオフィスを兼ねる個人邸における訴訟の話です。

都内の高級住宅街においてアパレル会社を営む方が建主でした。

1階にオフィスを、2階〜3階に住居を作り、職住近接の住まいとオフィスを作った建主。

設計に関する考え方が合う建築士を探し、工事会社は相見積もりをした結果、建築士が推薦した工事会社に決まりました。

この流れは、よくあることです。


鉄筋コンクリート造の大規模な邸宅兼オフィスを建築した建主でしたが、工事終盤から設計者・建築士との行き違いが発生しました。

オフィスや住まいの望む雰囲気を建築士に伝え、デザインはお任せだった建主。

オフィスの面積を最大限有効に活用するために、「容積一杯で設計する」ことを依頼し、建築士は建主が気に入る設計案を完成させました。

気になる工事費も建主の想定内となり、夢の「邸宅兼オフィス」の完成を待ち望んでいた建主でした。


ところが、途中から「行き違い」が発生したのです。

建築士との行き違いには、様々な点がありました。

例えば、住居の玄関は豪華で立派なのですが、段差がほとんどありません。

「段差がない」ことは近年のバリアフリーに適合していて、設計としてとても良いことです。

ところが、「段差がない」ことは靴のホコリなどがホールに入ってきやすいデメリットがあります。

何事も「良いことだけ」ということはなく、たいていのことにはメリットとデメリットがあります。

この点をしっかり説明しなかった建築士に「お任せだった」奥様は工事中に仰天しました。


「綺麗好き」の女性は多いですが、奥様は少し神経質なくらい「ホコリなどを嫌がる」傾向がありました。

こうして、玄関がフラットであることに端を発して、建築士との行き違いが様々な箇所に現れてきました。

寒がりの子どもに対して、「床暖房でしっかり暖かい住まい」を希望していたのに、床暖房を試運転しても、全く暖かくなりません。

設計時に、無垢材のフローリングを建築士が提案したのに対して、「無垢材もいいけど、床暖房を優先」と伝えた建主。

厚さ15mmの一般的な無垢フローリングなので、「床暖房の効果は問題ない」という話でした。

ところが、工事終盤に床暖房をつけてみても、「床暖房があるのかないのか不明」なほど暖かくなりません。

これに対して、建主は建築士に説明を求めましたが、納得いく説明にはなりませんでした。

このように「感情に行き違い」が発生すると、至る所に「思っていたのと違う」箇所が出てきてしまった建主。

弁護士に相談して、設計瑕疵・工事瑕疵を主張していました。


そして、弁護士から私たちに相談がありました。

建主から様々な話を聞くと、設計時からの「建築家・建築士との行き違い」があったようです。

これは、私たち設計者としては、非常に大きな問題なので、私たちは「建主との行き違い」を最低限にするように慎重にそして綿密に設計を進めています。

ここで、建築士や工事会社に対して訴訟を起こすことになった建主。

ただし、「建築設計の際の説明が悪いことに起因する瑕疵」を立証することは非常に困難です。

裁判ではこの件を主張はしますが、「具体的な損害額」の根拠がありません。

「具体的な損害額」としては、例えば「フローリングを剥がして、床暖房を施工し直す」などが「工事金額」としては一定の根拠となります。

ところが、この「工事金額」のどこまでを損害として認めるか、という点が難しい主張となります。

そこで、これらの損害額は提出しますが「他に何か具体的な損害が発生していないか」を綿密にチェックしました。

その結果、容積率の算定根拠にミスを発見しました。

建物を建てることができる最大の床面積の根拠となる容積率は、用途地域などの行政による指定以外に前面道路の幅員なども考慮して決定されます。

この「容積率算定ミス」によって、「本来ならば、もう少し建物を建てることが可能であった」ことを立証しました。

その結果、「建主が持つ計画地の財産を過小評価した設計」ということが裁判所に認められ、地価を考慮して損害額が確定しました。

「具体的な設計を詳細にチェック」した結果、建主の「損害をしっかり立証」できたことが大きなポイントとなった裁判の実例でした。

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